エネルギー基本計画見直しの議論について

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1.エネルギー基本計画とは?

日本において、国民の多くが反対しているにも関わらず原子力発電所(以降原発)が再稼働され、年々気候変動の自然災害が拡大しているのに、石炭火力発電所が大量に新設され、再生可能エネルギー(以降再エネ)の普及が頭打ちになっている理由をご存じでしょうか? その大きな要因の一つがどのエネルギーをどれくらいの割合とするかを定めた「エネルギー基本計画」です。 

この計画では、2030年に再エネ22~24%、原発20~22%、石炭火力26%(いわゆるエネルギーミックス)を目指しているために上述のような状況になっており、再エネの拡大、原発ゼロ、石炭火力の早期全廃の実現には、この計画値の抜本的に見直しが必須です。 

また、日本の温室効果ガスの削減目標は2030年26%削減と、野心的な目標を掲げる国々に比べ極めて低い目標であり、国内外から大きな批判の的になっていますが、この目標値はエネルギーミックスを元に定められているため、エネルギー基本計画が削減目標見直しの大きな足かせとなっています。 

このエネルギー基本計画は、少なくとも3年ごとに見直しすることになっており、その議論が2020年10月より始まっています。

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 2.見直し議論の課題

2020年10月26日に菅義偉首相が2050年までに脱炭素社会の実現を目指すことを表明したことで、脱炭素への移行を表明する企業が相次ぐなど、脱炭素を巡る産業界の状況は一変し、本分科会でも脱炭素社会の実現が主題となったことは歓迎すべきことと考えます。

 一方で、これまでも脱炭素社会への移行の必要性を訴えてきた環境NPOや専門家からは見直し議論の問題点も指摘されており、そのいくつかを紹介します。

 

(1)1.5℃目標を目指していない

なぜ2050年の脱炭素社会の実現が必要なのかの議論が見受けられません。地球の平均気温を産業革命以降1.5℃以下に抑えることがその目的ですが(1.5℃目標)、そのためには2030年に温室効果ガスの排出量を半減する必要があるということが国際社会で広く受け入れられています。本分科会ではパリ協定の1.5℃は努力目標という過去の状況が前提の議論となっているようで、あと10年で社会システム自体を大きく変革する必要があるとの視点、議論も今のところ見受けられません。これでは、1.5℃目標の達成に貢献できないだけでなく、取引先に再エネ100%を求めるグローバルな企業活動から日本企業が締め出されたり、輸出品に関税がかけられてしまうことも懸念されます。次回から2030年の議論が始まるので、内容を注視していきたいと思います。

 

(2)将来のイノベーションに依存

今回の議論では、火力発電で排出されるCO2を回収し、貯蔵したり、利用する技術(カーボンリサイクル)や水素、アンモニアが燃料の火力発電(ゼロエミッション火力)など、将来のイノベーションが大前提になっています。しかし、これらのイノベーションには経済合理性や技術的障壁、調達先の確保など今後解決しなければならない様々な課題を抱えており、実現性が不透明と言わざるを得ません。

 一方、欧州などでは風力発電太陽光発電などの天候に左右される電源(変動性再エネ)を大量導入するためのシステム改革や技術革新(セクターカップリング、電力システム改革など)について活発に議論され、取り組みも進んでいます。本分科会でも再エネを最大限導入するとしながらも、欧州に見られる変動性再エネ導入の議論が見受けられません。

 また、既存技術をいかに普及、拡大させるか、グリーンな経済へ移行に伴って生じる雇用の移動を円滑に行うための議論(公平な移行)も置き去りにされており、足元をしっかり固めた国民が安心して暮らせる社会にするための議論が望まれるところです。

 

(3)議論の体制

この日本の将来を左右する大切な議論を担うのは産業界や大学、研究機関から選ばれた24名の委員の方々ですが、脱炭素社会を担う柱であり政府が最大限導入を目指すべき再エネの専門家がほとんどいない、気候変動対策が不十分であればより多くの被害を受けることになる若い世代は委員におらず、60代、70代の委員が7割近くを占めるなど、委員の構成が偏っているとの指摘もあります。また、多くの委員が脱炭素社会の実現には原子力発電所の新設や更新が欠かせないと発言するなど、世論との意識に大きな乖離がある論点もあります。そもそも、すべての人々の将来に関わる重大なこの議論が一省庁と産業界寄りの委員のよって大きく方向づけられてしまうこの現状は大きな課題と言えるでしょう。

 

 3.私たちにできること

 1月27日よりエネ庁が国民の意見を受け付ける「意見箱」を設置しましたので、より多くの声を国政に届けて、あと4年が以下に重要であるかを認識していただきましょう。

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また、日本でも自分たちの将来を憂う若者たちが声を上げ、素晴らしいキャンペーンを展開しています。署名も受け付けていますので、ぜひご協力をお願いします。 

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